初めての友達はマレーシア人。
学部3年の春、初めて大学の友達ができた。
相変わらず僕は引っ込み思案でビビりで、今回もまた相手からのアプローチを待っていた。
前回も書いたように僕は自分から友達をつくることがなかった。
21年間一度も。
だから全く成長していないといえばそうなのかもしれないが今日はそんな暗い話を書くつもりはない。
相手はマレーシアから来た留学生だった。
実習課題の班が同じで、課題の提出先が分からないと声をかけてきた彼を僕が案内した。
次のクラスが一緒だったからお昼を一緒に食べた。
一緒にとは言っても彼はイスラムで、断食をしていたから僕が食べる納豆巻きを見ていただけだった。
昼飯の最中僕は彼といろいろな話をした。
マレーシアはどんな国かと尋ねたら、とてもいい国。大好き。と返ってきた。
彼の日本語は拙いけれど、表情から本当にマレーシアが好きなんだとわかった。
それではどうして日本に来たのかと聞いたら、本当はUKの大学に行きたかったけど日本の大学は奨学金が出るからこっちに来たとのことだった。
正確に聞き取れているかは置いといて、彼は日本の大学ではなくイギリスの大学に行きたかったということはわかった。
どうして?と聞くと、マレーシアでは母国語の他に英語も小さい頃から勉強するけど、日本語はそうではないからだと言った。
今度は彼から質問を受けた。
「納豆巻きってどんな味?」
僕は一瞬戸惑った。納豆巻きの味を表現できなかったからだった。
苦し紛れに「醤油の味。」と答えた。
「それは醤油つけているからでしょ?」と笑われた。
僕も一緒になって笑った。
そんな感じで僕は彼を知った。
彼は日本に来てまだ3ヶ月も経たないとのことだった。
日本に来たものの日本語が上手に話せないから、人に話しかけることが恥ずかしいと彼は言った。
彼もまた、僕とは違う意味で人に声をかける勇気が持てない人間だった。
でもそうして話をして、お互いを少しずつ知って、次の授業を同じ教室で受けた後、彼は何も言わずに教室を先に出ていった。
仕方がないことだ。人間関係は合う合わないがある。
もしかしたら彼は僕とは合わないと感じたんだろう。
そう思ってずっと忘れていたこの胸のあたりがチクっとする嫌な痛みを軽食でごまかして、図書館で課題に取り組み始めた。
課題もだいぶ片付いた頃、スマホを手に取るとLINEに数件のメッセージが来ていた。
彼からだった。
「今日はいっぱい話をしてくれてありがとう。友達になってくれませんか?」
僕は人を見る目がないことをひどく痛感した。
彼は勇気が無い人間ではなかった。
確かに直接ではなくLINEを使ってはいるが、これはスマホゲームのフレンド申請とは訳が違う。
相手を知っている分、その重みが違う。
僕は彼を心の底から尊敬した。
自分と違う国、言語、文化の中で、話しかけるのすら戸惑っていた彼が、僕にはできなかった「友達になってください。」を勇気を出して言葉にしたからだった。
自分の中で何かが変わる音がしたなんていったら安っぽい小説のパクりと思われるかもしれないけど、本当にそんな感覚だった。
僕は今まで自分から友達をつくることができなかった。
声をかける勇気がなかった。拒絶されるのが怖かった。
けどそれは大なり小なりみんなが抱えている問題で、それを克服できるかは個人の問題だ。
僕は彼から勇気をもらった。
変な言い方だが、彼は日本語も完璧ではないし、文化的にどうしても日本人と差異が生じてしまう。僕なんかよりもっと、友人をつくるハードルは高い。
得意なこと、苦手なことに個人差はあるから人と比べるのは違う。
でも彼が前に進む姿を見て、僕も負けてられないなと素直に感じた、そんな瞬間だった。